「電磁波の健康影響を考えるシンポジウム」

基調講演 網代太郎(当連絡会議代表共同世話人)


 総合司会・懸樋哲夫(電磁波から健康を守る百万人署名連絡会議共同代表世話人) それでは定刻になりましたので、本日のシンポジウムを始めさせていただきたいと思います。今日は、「電磁波の健康影響を考えるシンポジウム」にご参加くださいまして、まことにありがとうございます。私ども、主催は「電磁波から健康を守る百万人署名連絡会議」で、去年6月にWHOの勧告が出て、それ以降の経済産業省のワーキンググループ(WG)の動きなどに対して声を挙げていくために、署名活動などを展開しています。そのために全国のグループが結集した団体です。
 本日は、大変お忙しいところ、4人のそうそうたるパネラーの方にお出でいただきました。後であらためて紹介させていただきたいと思います。
 私たちの署名は一昨日集計しましたところ、8万2千くらいになっています。まだ正確に集計しきれないのですけれども。まだ、続々と届いていますので、これからも続けていきたいというところです。
 今日お出でいただいた皆さんには申すまでもないかもしれませんけれども、携帯電話の電源はお切りください。
 それと、資料の中に質問票が入っています。休憩時間までに集めますので、それまでに書いて、周りのスタッフに渡していただくようにお願いいたします。
 私は申し遅れましたけれども、連絡会議の共同代表の1人にさせていただいている懸樋と申します。大久保さんと網代さんとの3人が共同代表ということで運営をさせていただいています。
 それでは、基調報告を、その1人の網代さんにお願いしたいと思います。

(以下、網代)


電磁波(電磁界)の健康影響

 生活環境中の弱い電磁波(電界および磁界)に長期間曝露され続ける事により、がんなどの健康影響が起こる恐れがあるとの研究報告が多数あります。多くの市民が不安を感じ、携帯電話基地局や、電力施設をめぐる紛争や対策などが全国で相次いでいます。この後お話される斎藤貴男さんが取材されている兵庫県川西市で携帯電話中継基地局が撤去されたのも、その一例です。
 また、身の回りの弱い電磁波に曝露されると様々な症状が出る電磁波過敏症で苦しんでいる方々もいらっしゃるわけです。
 問題になっている主な電磁波としては、
・超低周波(極低周波)=電力設備や電化製品、電気機器から漏れる電磁波など
・高周波=電波利用のために意図的に発生させている電磁波(携帯電話、テレビ・ラジオ、無線通信)
 -などがあります。

WHOの国際電磁界プロジェクト

 電磁波への不安が世界的に広がっていることから、世界保健機関(WHO)は1996年に「国際電磁界プロジェクト」を発足させました。国際電磁界プロジェクトは、各国が共同して研究を行い、環境保健基準(EHC)をまとめることなどが主な目的です。
 超低周波についてのEHCは昨年(2007年)6月18日に公表されました。

WHOのEHCの主な内容

 昨年6月に公表されたEHCの主な内容は、以下の通りです。
 まず「健康リスク評価」として、強い電磁波を短期間浴びることによってすぐ影響が出る「急性影響」については生物学的に評価が確立しているので曝露制限が必要であり、国際的ガイドラインを守る必要があるとしています。
 WHOのEHCには、もっとたくさん色々なことが書いてあるのですけれども、特に私たちにとって重要なのは、私たちの体に実際に影響がある、または、影響があるかもしれないと言っているところです。そこで、一番重要なこととしては「慢性影響」について書かれていて、「毎日の長期にわたる弱い(0.3~0.4μTを上回る)超低周波磁界への曝露が健康リスクを引き起こすことを示唆する科学的証拠は、小児白血病の一貫したリスク増加パターンを立証した疫学研究に基づいている」「すべてを考慮すると、証拠は因果関係ありとするには充分強固ではないものの、懸念を抱き続けるには充分強固である」と書いてあります。
 電磁波からの「防護手段」としては、「予防的アプローチ(予防的措置)を採用することが必要である」とか、「社会的および経済的利益を損なわないという条件の下で、曝露を減少させるための極めて低コストの予防法を実施することは、合理的かつ正当である」。そういったことが色々と書かれています。これを素直に読めば、“超低周波磁界は危険かもしれないので、何らかの対策は必要”ということになると思います。

経済産業省の対応

 日本には超低周波電界の基準値はありますが、磁界の基準値はありません。それで、このEHCの公表に合わせて、経済産業省原子力安全・保安院はワーキンググループ(WG)を設置して、このWGに基準作りを検討させました。
 このWGのメンバーは、主査が1名、委員が11名いて、この11名は「専門家委員」「中立委員」「電事連委員」という方々で構成されています。このWGは、6月1日、つまりEHCが公表される前から設置されました。
 その後、10月からはWGの議論について市民団体から意見募集するということが原子力安全・保安院のホームページに出ました。
 そしてWGは12月に報告書をほぼまとめ(資料2)、今年1月にこのWGの上の組織である、「総合資源エネルギー調査会 原子力安全・保安部会 電力安全小委員会」で、この報告書案が承認され、1月から2月にかけてこの報告書案についてパブリックコメントが募集されました。
 今後、省令で基準値が決定されるのではないかということです。

WG報告書案の内容と、問題点

 このWGの報告書案の内容ですが、まず「高レベルの磁界に関する短期的な健康影響に係る対応」については、先ほど申し上げた「国際的な曝露ガイドラインを採用する等必要な諸規定の整備、改正を行うべき」という内容になっています。具体的には、国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)が1998年に示したガイドラインに基づき、50Hzの場合(東日本)は100μT、60Hzの場合(西日本)は83μTで規制すべきとしています(表参照)。
 それから、「低レベルの磁界による長期的な影響の可能性に係る対応」については、WG報告書案はまず「1」として「更なる研究プログラムの推進」が書いてあります。「2」としては「リスクコミュニケーション活動の充実」を挙げ、「磁界曝露による健康影響に関わる正確な知識が国民に正しく伝わっていないことから生じる問題の解消には、リスクコミュニケーションの増進を目的とした中立的な常設の電磁界情報センター機能の構築が必要である」、あるいは「幼稚園、学校等多数の子供が定常的に集まる場所等では、リスクコミュニケーション活動が特に重要である」というようなことを書いています。
 以上のようなWG報告書案の内容の問題点としては、「リスクコミュニケーション」という言葉の意味をねじ曲げていることがあります。つまり、WHOのファクトシートでは、「全ての関係者が参画したうえで意思決定するためのもの」という意味でコミュニケーションを挙げているのに、WGの報告書案では“無知蒙昧な国民に正確な知識を正しく伝えてあげるためのもの”というようなトーンで貫かれています。
 リスクコミュニケーション活動の充実を言うのであれば、そもそもこのWGに市民団体、市民代表を入れるべきでした。私たちは初めからこのWGに、市民団体代表を入れてくれということを申し入れたのですけども、断られたという経緯があります(資料3)。
 また、報告書案には「曝露低減のための低費用方策」について「低レベルの電磁界による長期的影響については、因果関係の証拠が弱い。しかし磁界レベルの低減に配慮することは、リスクコミュニケーションの観点から意味がある」「海外で行われている磁界低減方策は、わが国では高鉄塔化等により既に実施されており、電力設備から発生する磁界は既にかなり低いレベルである。電気事業者は、このような取組を今後の新たな設備設置の際にも可能な範囲で継続することが望ましい」と書いてあります。つまり、電力設備について新しい対策はもう何もしなくていいと事実上書いてあるわけです。“毎日の長期にわたる弱い磁界への曝露によって小児白血病の発症リスクが2倍になるという強固な懸念がある、だから予防的アプローチが必要だ”というWHOのEHCの勧告を無視したわけですね。

EHC勧告を無視した理由を、WG報告書案はどう説明しているか

 EHCの勧告を無視した-まあ、WGの報告書案には「無視」という露骨な表現は書いていませんけど、結果として無視した理由については、報告書案に色々書かれています。
 その一つとしては「ファクトシート原理主義」と私が勝手に名前をつけたのですけども、このWGの委員の中に、元WHOの大久保千代次さんという方がいて、この大久保千代次委員が、このWGの議論をほとんど主導しました。この大久保委員は、WHOの正式見解はEHCではなく、EHCと同じ日にWHOが発表した「ファクトシート」の方であるとWGの場で主張しました。
 例えば、他の委員が「予防的アプローチ」のことに言及したりすると、大久保さんは「ファクトシートをよく読んで下さい。そんなことは書いてありません。」とかいうふうに、その委員を嗜めたりしているわけですね。つまり、ファクトシートに書いてあることが絶対であり、ファクトシートに書いてないことはしなくていいというか、するべきではないという感じで議論を引っ張っていったわけです。
 その上で、この大久保委員は、「念のための措置(一般的には「予防的措置」と訳されますが)」という文言をファクトシートは一切使用していない」「EHCは、磁界曝露低減策について『実行すべきである』と書いているが、ファクトシートでは『探し求めても良い』とするなど、磁界低減策について消極的な姿勢を打ち出している」などと、WGで繰り返し発言しました。このWGの報告書案にもその旨が書いてあって、だから曝露低減や予防的措置は必要ないのだという内容になっています。
 しかし、各国研究者が10年以上かけてまとめたEHCより、ファクトシートを優先させるというのは、ちょっとどう考えても不自然ですし、また、ファクトシートとはEHCの内容を否定しているわけではないんですよね。また、すでに見たとおり、リスクコミュニケーションについては、WGの報告書案はファクトシートの記述を捻じ曲げているわけですから、実は「ファクトシート原理主義」としての一貫性もない。むしろ「ご都合主義」なわけです。
 それから、このWGの報告書案は疫学研究を非常に軽視しています。例えば、“肺がんと喫煙については、疫学調査というのは有効だったけれども、電磁波は違うんだ”とか、“コホート研究ではなく症例対象研究であるから限界があるのだ”とか、そういったことが結構なページ数を裂いて書かれています。この辺のおかしさというのは、後で津田先生がおっしゃってくれるのかもしれないと思います。ただ、素人から見ても明らかな疑問点がありまして、疫学という手法に本当にそんなに問題があるのであれば、世界各国の研究者は初めからやっても意味がないと分かっていた研究を一生懸命やったことになってしまいます。

経産省WGのその他の問題点

 このWGのその他の問題点としては、委員の構成が不公正、不公平です。例えば、規制を受ける当事者である電事連の委員が参加していますが、その一方で市民団体からの参加がない。先に述べましたように市民団体から意見を募集しましたけれども、ほとんど議論の対象にはされませんでした。意見を出させただけ、という感じでした。それから、専門家委員のうち分かっているだけでも2名は、超低周波電磁波の規制対象である電力業者や、高周波電磁波の規制対象である電気通信業者から研究費を得ており、利益相反の問題があります。中立委員のうち弁護士1名は、もんじゅや各地の原発差し止め訴訟で電力会社側の代理人を務めている方です。こういう人を呼んできて「中立」と平気で経産省は言うわけですね。
 それから、WGは規制対象を電力設備だけに限定していて、家電などについては対象にしないという問題点もあります。
 また、電磁波過敏症について本報告書案は、WHOのファクトシートNo.296(これは昨年6月にEHCと同時に出されたファクトシートより前に出た、電磁波過敏症のことを書いた別のファクトシートですが)を紹介する形で、症状と電磁波の曝露の関係は認められないと、WGの報告書案に書いています。
 このWGの専門家委員のうち2名は、電磁波過敏症の原因はマスメディアが不安をあおるせいだと言っています。例えば、WGの議事録からの引用ですけれども、「そう(過敏症に)なる背景というのは、電磁波は危ないという情報が非常に氾濫しているということが、我々としてはきちんと言っていかなくてはいけない。(略)危ない、危ないということで、本来健康に暮らせる方が、それに対する不安のために、非常に大変な目に遭われている」などと発言したのです。日本にはもちろん電磁波過敏症に関する先進的な診療や研究に取り組んでいるお医者さん・研究者が存在するわけです。今日これからお話していただく宮田先生も、まさにそういう方なのですけども、そうした医師や研究者に対してWGは何の調査もしていません。
 分かりやすい比較かなと思って、最後に申し上げますが、いわゆる「シックハウス問題」、つまり、生活環境中の微量化学物質で健康影響が出る問題について、当時の厚生省が設けた「快適で健康的な住宅に関する検討会議健康住宅関連基準策定専門部会化学物質小委員会」は、その報告書(1997年6月)で、化学物質ホルムアルデヒドの室内指針値を「0.1mg/m3以下」とすることが適当であると答申した時に、さらに微量な化学物質に反応する化学物質過敏症の発症者の存在等を念頭に、「しかしながら、さらに低い濃度曝露レベルでもホルムアルデヒド臭を感じる人のいることに留意する必要がある」と明記しました。
 そういうことを考えると、この厚生省の報告書が出たのはもう10年以上前ですから、電磁波問題は化学物質問題の10年前のレベルにも達してないのかなというような、非常に情けないような気持ちがいたしました。
 これで終わります。





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