「電磁波の健康影響を考えるシンポジウム」

講演 荻野 晃也さん(電磁波環境研究所所長)

シンポジウム


<パネリスト(発言順)>
荻野 晃也さん(電磁波環境研究所所長)
津田 敏秀さん(岡山大学大学院環境学研究科教授)
宮田 幹夫さん(北里大学医学部名誉教授)
斎藤 貴男さん(ジャーナリスト)

<コーディネーター>
大久保 貞利(電磁波から健康を守る百万人署名連絡会議共同代表世話人)

 コーディネーター (パネリストの紹介等略)
 初めに、荻野さんには、世界保健機関(WHO)の環境保健基準(EHC)の内容と、先程網代さんも言っていましたファクトシートととの関係、経済産業省のワーキンググループが出した見解との関連も含めて、それらの問題点などを、約20分にわたってお話しいただきます。よろしくお願いいたします。

(以下、荻野さん)

電磁波問題の経緯

 ご紹介いただきました、荻野です。
 僕はしゃべると長いので有名なのですけれども、20分で話をしろというのは至難の業なのです。けれども、みなさんにできるだけ自由に議論していただく時間を確保したいので…。OHPをお見せしながらお話しします。
 それと、電磁波とは何かとか、そういうのは一切お話しませんので、ご了承ください。
 配布資料に私のレジメ(資料4)が付いておりますので、帰ってからそれを読んでいただければ、いろいろな問題点がおわかりいただけると思います。
 私が「電磁波問題も大変重要ですよ」と言い始めたのは、今から30年前です。しかし、その後も日本では、電磁波問題が何も紹介されず知られてこなかったので、これでは大変だと思い、90年代初めごろから僕もいろいろと動き出したという経緯があります。
 電磁波問題には、ものすごく長い経過があるのです。去年から急に日本でも極低周波磁場の規制値を設ける動きが出てきたのですが、本当は長い経過をずっとしゃべらないと、世界的な状況や、WHOのことはわからないのです。
 電磁波が問題になった最初と言って良いのは、アメリカのワルトハイマー、リーパーという二人の研究者が1979年に、配電線の近くで小児白血病が3倍に増える可能性を示した、世界で最初の疫学報告でした。これが世界中に大ショックを与えた、というのがそもそもの始まりです。
 そういうことを受けて、例えば、「ニューヨークタイムズ」が1989年、大々的な2頁に渡る電磁波問題の特集をやりました。また、アメリカ最大の読者数(3350万人)を誇る日曜紙「USA WEEKEND」は1993年1月3日の新春特集号のトップで「私の電気毛布が私を殺すだろうか?」という、電磁波問題の大特集をやりました。日本のマスコミ、新聞は、今なお、こんなに詳しい問題提起はしていないと思います。
 この1993年は、クリントン大統領が登場した年でした。それまで、共和党のブッシュ(父)大統領は電磁波問題が広がらないよう、必死になって握りつぶしてきました。しかし、クリントン大統領になってからはアメリカに電磁波問題が広がり、電力会社は対策費用として年間10億ドル以上をつぎ込んでいたほどです
 アメリカの環境都市として有名なカリフォルニア州アーバイン市というところでは、1992年から0.4μTの規制を始めました。
 アメリカ環境健康科学研究所・作業班の報告(98年7月)は、「がんの可能性があり得る」との結論を出しましたが、その際に「小児白血病の証拠があるか」との投票で委員26人中の20人が「すでに証拠あり」で、6人が「証拠はまだ不十分」でした。「証拠がない」とした委員は1人もいませんでした。
 それから10年経って、ようやくWHOも、小児白血病の増加の可能性を認めた環境保健基準(EHC)を出したというわけです。
 スウェーデンは電磁波問題に関してたいへん厳しい立場を取っていて、90年代の初めごろから規制を強化し始めました。コンピュータ表示端末(VDT)について、90年に「MPRⅡ」で0.25μT以下の規制を始めました。


WHOの「国際電磁界プロジェクト」と日本の対応



 WHOと日本の対応の流れを書きました(上の図)。
 WHOは1996年4月に「国際電磁界プロジェクト」を発足させて、EHC作りの作業を始めました。98年には国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)がガイドライン(50Hzの場合で100μT)を出しました。
 日本では関係官庁が集まって「電磁界省庁連絡会議」を1996年4月につくり、WHOのプロジェクトにどう対処するか、議論しました。日本は最初はこのプロジェクトに参加しませんでした。これ(下の表)は、プロジェクトがスタートした時点での(研究費用負担の)ファンドについての表です。日本には「?」がついていて、参加が確定していなかったことが分かります。



 このファンドがスタートした5月のWHOの最初の国際会議では、すでにスウェーデンが対策を採っていることが報告されました。スウェーデンでは92年にカロリンスカ報告という、小児白血病が増加している可能性を示す疫学結果が出たものですから、93年から対策を採り始めていました。詳しいことを言う時間はありませんが、送電線で子供が何人影響を受けているかとか、工事費用とのバランスを考えて対策をやっているという報告でした。また、カナダからは、60Hzの超低周波電磁場の問題、携帯電話、携帯電話タワー、コンピュータ端末の順で国民が関心を持っていることが報告されました。
 日本とアメリカは最初は参加しませんでしたが、参加しないでヨーロッパの国々に厳しいEHCを作られては困るので、後から参加することを決めました。
 日本は参加するのかどうか、参加するならどこの予算でやるか、また、後になって1998年から兜真徳先生を中心とした極低周波磁場と白血病の疫学調査をスタートさせましたけれども、そういうことを決めたのは、全部「電磁界省庁連絡会議」です。そして、先般の経済産業省のワーキンググループ(WG)も、この流れの中にあります。
 私は先日、環境省に行きまして、「省庁連絡会議の議事録を見せてくれ」と頼みました。そうしましたら、議事録は一切非公開なのです。「そもそも議事録を作っていない可能性があります」とも言われました。96年からずっと続いていて、電磁波について重要なことを決めている会議が、非公開なのです。
 環境省は、予防原則について日本でどう対処するかという研究会もやっていましたが、「開催日に行って傍聴させろ」と申し入れをしたのですが、これも非公開でした。予防原則という重要な思想に関するものが、なぜ非公開なのでしょうか? 大変悲しいのですけども、これが日本の現状です。

経産省ワーキンググループの問題点

 先ほど網代さんも言われましたが、WHOのEHC238は昨年6月18日に発表になりましたけれども、このWGはそれよりも前の6月1日からスタートしています。国の役人は皆、WHOがいつ報告書を出すか知っていましたし、内容もほとんど分かっていましたから、EHC発表の前にスタートさせたわけです。そして、WHOの報告書を都合よく利用して、ICNIRPが1998年に決めた古いガイドラインを押し付けようとしている。このような路線でこれまでずーっとやってきたのが「省庁連絡会議」であり、このWGもそうでした。
 そもそも、WHOのEHC238を受けて、現在、ICNIRPが新しいガイドライン値を検討しています。WHOの「環境保健基準」(2005年8月23日)には「EHCは、ICNIRPなどの機関に対しては、国際的曝露ガイドラインを再検討するための科学的根拠を提供する」と書かれています。ですから、今ICNIRPが検討をしているのです。すでに昨年10月に、ICNIRPは第1案を出しています。ですから、本来はICNIRPが新しい指針値を出すのを待つべきなのに、それをしないで、ICNIRPの古い指針値を採ろうとしている。古い指針値を採るのであれば、今になって採るのではなく、その指針値が出された98年の段階ですぐスタートすべきでした。送電線付近に住む子供についての報告も、すでにちゃんと書かれていました。スウェーデン、ドイツなどの国々は、それを採用した上で、次のガイドラインを待っているわけです。
 それから、ICNIRPの98年のガイドラインは曝露限界値です。つまり「これ以上曝露したらダメだよ。これ以下にしなさい」という数値です。「以下」にするというのはゼロまであるわけですけれども、そういうガイドラインなのですね。しかし、経産省WGの報告書では、これ以下なら安全だというような表現になっている。これはおかしなことなのです。
 今回のWGの議論で、さらに重要な問題点の一つは、「WHOの正式見解は、EHCでなくファクトシートだ」と言っていることです。WHOの電磁界プロジェクトの目的はEHCを作成することであって、ファクトシートではないのです。EHCは「専門家が集まって作成する報告書」であり、それを作成するために96年から11年もかかったのであり、一方の「ファクトシート」はWHO内の電磁界プロジェクト事務局が作成するのであって、どちらが重要かは言うまでもありません。以前は「ファクトシート」は「資料」と訳されていました(参照・WHOのウェブサイト)。「資料」であるものが何で「正式」なのでしょうか? こんな馬鹿なことはありません。
 それでもまあ、EHCが出たことで、岩手県奥州市では保育所を送電線の下に作るのをやめるという動きが、すでに出てきています。
 経産省でのWGでの議論の結果、電力設備は50Hzで100μTという規制を決めようとしています。ところがそれでは済まない問題があります。労働衛生法は労働者をどうするのか。家電製品はどうするのか。いろいろな問題について各省庁がどうするつもりなのかについて、省庁連絡会議が公開されないから、私たちは何もわかりません。
 日本は電力設備からの防護に関して一番脆弱な国です。家の上に送電線を平気で通すようなことをしてきた国は日本だけですから。その延長上で、家電製品も問題です。日本独自の製品であるIHクッキングヒーターのような極めてすごい電磁波被曝をするものを、日本の電力会社などはものすごく一生懸命販売している。国民の健康をも犠牲にしてやってきた政策などに、今、国民から疑問点が出てきているわけです。

 コーディネーター WHOから託された指針値の設定をICNIRPがまだ検討している段階なのに、ずっと古い10年前の1998年の指針値でもって、日本ではこの議論を押さえ込んでしまおうとしている構造が、今の話でかなり見えてきたと思います。





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