「電磁波の健康影響を考えるシンポジウム」

【資料4】荻野晃也さんのレジュメ


【1】はじめに

 2007年6月18日、世界保健機関(以下、WHO)は「環境保健基準:EHC238」を発表し、「電磁界(EMF)被曝で小児白血病になる可能性」を正式に認めました。その電磁波は、送電線・配電線や電化製品から漏洩する50/60ヘルツなどの超低周波の磁界で「0.3~0.4マイクロテスラμT(3~4ミリガウスmG)以上の被曝で小児白血病が2倍になる」というのですから大問題です。このWHOの「EHC238」は世界各国の専門家が集まって検討した結果であり、その報告を受けて国際非電離放射線防護委員会(以下、ICNIRP)などの国際機関が具体的な基準値作成作業を行うことは、WHOの「環境保健基準」(2005年8月23日)に「EMF/EHCは、ICNIRPなどの機関に対しては、国際的暴露ガイドラインを再検討するための科学的根拠を提供する」と書かれていることでも明白です。 ところがこの日本では、何と、ICNIRPが10年前の1998年に発表した古いガイドラインで示した制限値を利用して、「100μT(50ヘルツの場合)」という高い数値で法制化することを急いでいます。それを答申した経産省ワーキンググループ(WG)のメンバーには東京消費者団体副会長や毎日新聞論説委員まで入っているのですから驚きます。「危険性が確定したわけではなく、危険性も少ない」というのが理由のようですが、「小児白血病の可能性のある」ような電磁波強度の数百倍もあるような磁界強度で良いということに誰が納得するでしょうか。「電力会社が大喜びする」のは当然でしょう。ましてや、そのWGの委員である弁護士は「基準値なんて作る必要がない」とまで発言したと聞いて私は絶句しました。子どもなどの弱者の立場を尊重しないのがこの日本の現状なのです。
 電磁波問題は、今や「21世紀最大の公害」と言われるようになってきたのには理由があります。20世紀は科学技術が驚くほど進展し、その中でも生活レベルでいえば「電気の世紀」と言って良いほどでした。マルコニー(イタリア)が大西洋横断の電波通信に成功したのが1901年でしたし、電磁波の仲間であるエックス線発見で第1回ノーベル物理学賞をレントゲン(ドイツ)が受賞したのが1900年でした。またその頃、「交流電気の危険性」を主張して弟子テスラと争っていた直流電気派のエジソン(米)は破産に直面していました。交流電気の危険性を証明する電気椅子を発明していて最初に使用されたのが1890年だったのですが、それでも直流は交流に負けてしまったのでした。その「交流電気の危険性」が100年後の今になって問題になってきているといえましょう。
 東京でこのシンポジュームが開催されることになった経過は、一言でいって「余りにも高い規制値を法制化する」ことに対しての危機感があるからだと思います。電磁波問題に関しては、日本のマスコミや産官学が20世紀末から浮上してきたこの問題の経過を知らないのか、または隠蔽しようとしているのではないかとすら私には思われます。そこで、超低周波の電磁波問題に限定しての過去の経過を簡単に述べておくことにします。

【2】電磁波問題の経過(1)(1979年~1996年)

 第二次世界大戦以降、多くの電化製品が急激に普及し始めました。日本でもTV(白黒)普及率が1960年前後の5年間で10%から90%になり、「三種の神器」である洗濯機・冷蔵庫・掃除機も急増しました。そのような背景の中で、電磁波被曝が問題になり始めたのは70年代の後半からでした。「配電線近くで小児白血病が増加」の可能性を示した最初の疫学研究であるワルトハイマー論文(1979)をこの問題のスタートに位置付けることが出来ます。その論文をめぐっての論争や、その後の疫学研究の進展が示したのは、「僅かな磁界被曝なのにガンが増加する」との数多くの疫学研究でした。小児白血病では、80年代では6件、96年までには28件もの疫学研究が発表されており、その多くが増加を示していました。それだからこそ、欧米では、80年代に電磁波問題が新しい環境問題として関心が寄せられ始め、90年代前半には政治問題化。アーバイン市(米国)が0.4μT規制を開始したのは1992年でしたが、各国でも規制の動きが浮上してきたのです。米国ではブッシュ(父)大統領が電磁波問題を握りつぶしていたのですが、93年にクリントン大統領が登場すると共に大きな話題となり、電力会社は対策費用として年間1000億円以上をつぎ込んでいたほどです。特に、コンピュータ表示端末であるVDU(VDT)に対しては、スウェーデンが90年に「MPRⅡ」規制で0.25μT以下の規制を開始していましたが、更に1992年のカロリンスカ研究所・報告(0.2μT以上の被曝で小児白血病が2.7倍に増加)を受けて直ちに対策に乗り出し、95年から「0.5、0.3、0.2μTの3段階規制を開始しようとしたのですが、産業界学会の反対もあって結局、WHOでの基準値作成へと行動を変えたのでした。

【3】電磁波問題の経過(2)(WHOの動き)

 電磁波には低周波と高周波とがあり、戦後になってまず最初に問題になってきたのは高周波でした。レーダーなどの軍事技術が進み、軍人に白内障などの異常報告が多かったためです。それでも電磁波は非電離放射線なので「電離放射線より格段に安全だ」と思われていたこともあり、WHOも危険性を無視していたのです。化学物質の害や環境問題が話題になってきた1973年に、WHOは、「環境保健(健康)基準:EHC」作成を開始しました。「EHC」の目的は4項目あり、「①環境汚染物質への暴露と人間の健康との関係に関する情報を評価し、暴露限界設定のためのガイドラインを提供する」「②新しい汚染物質あるいは潜在的な汚染物質を同定する」「③汚染物質が健康に及ぼす影響について知識のギャップを同定する」「④国際的に比較可能な結果を得るため毒物学的方法や疫学的方法の調和を促進する」です。まず1976年に水俣病で問題になった「水銀」の「EHC」が報告されました。「WHO憲章」には「健康とは完全に身体的・精神的・社会的に安寧(ウェル・ビーイング)な状態であり、単に疾病や病弱の存在しないことではない」と定義されています。日本ではこの定義があまり知られておらず、「病気でないこと」のみが「健康の証拠」のように思っている人が多いようです。
 そのWHOが電磁波に関して最初に取り組んだのが極低周波の問題でした。84年に「EHC35」を、87年に「EHC69」を発表しています。電力会社が良く引用した「5000μTでも安全」宣伝は、この「EHC69」に書かれている文章を引用していたわけです。一方で、高周波には「熱発生の効果のみ」「長期間の悪影響はない」と考えられ、その前提でケータイが世界中に普及し始めました。高周波に関する「EHC」の作成も試みられ、93年に「EHC137」が発表されたのですが、研究状況を紹介するだけでした。その後、低周波や高周波の危険性を示す研究が多いこともあって、WHOは96年から新しい「EHC」作成の作業を開始したわけです。当初は5年間程度の計画で始めたのですが、発表が大幅に遅れ07年6月18日に超低周波の「EHC238」が発表され、「小児白血病の増加」を可能性として認めました。高周波の「EHC」は2009年以降に発表されるでしょう。
 WHOの電磁界プロジェクトに対しては世界中の関心が高いこともあって、WHOは時々「ファクトシート」や解説を発表して、討論がブラックボックスでないように進めていたのですが、最終的には「EHC」を発表するためなのです。このような形で進められた「EHC」は電磁波問題が最初ではないかと思います。「ファクトシート」はWHOの電磁界プロジェクトの事務局が作成し、WHOから発表されていて英語・フランス語・ロシア語・日本語などにも翻訳されています。環境問題に対してのコミュニケーションを重視する現れの1つです。ところが不思議なことに「EHC238」の邦訳は今なお発表されていません。96年以降に発表された「ファクトシート」を紹介しましょう。
「No.181」国際電磁界プロジェクト
「No.182」物理的特性と生体系への影響
「No.183」無線周波数電磁界の健康影響
「No.184」電磁界リスクへの一般市民の認知
「No.193」携帯電話と無線基地局
「No.201」VDUと健康
「No.304」無線局と無線技術
「No.205」超低周波電磁界
「No.226」レーダー
「背景説明」用心政策
「No.263」超低周波電磁界とがん
「No.296」電磁過敏症
「No.299」静電界と静磁界
「No.322」電磁界と公衆衛生
 この「ファクトシート」の日本語訳は、「No.263」までは「資料」となっていて、「No.296」からは「ファクトシート」となっています。また、「No.263」までと「No.296」以降とではWHO内のアドレスが変わっているのですが、その理由は良くわかりません。前者のアドレス最終日が2005年6月18日であり、「EHC238」の丁度2年前ですから、原案が出来上がると共に電磁界プロジェクトの機構が変わった可能性もあります。事務局長の交代によるのか、電磁界プロジェクト内で何らかの変化があった可能性もあります。しかし、原文はいずれの場合も「ファクトシート」として発表されていることから考えると、「資料」から「ファクトシート」への邦訳変更は、「資料では困る」という翻訳者やその背景にいると思われる日本政府関係者の意向が反映していると考える方が良いでしょう。

【4】低周波の危険性

 電磁波が小児ガンの要因になりうるなど予想さえされていなかった79年 3月のこと、ワルトハイマーら(米)が一つの論文を発表しました。「電線の形状と小児ガン」という配電線近くでの小児白血病の増加を示す疫学論文でした。世界中が驚き、電磁波問題が拡大し始めました。例えば01年だけで5件もの報告が発表されていて、その中にはWHOの下部機関である国際ガン研究機構(IARC)と国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)の発表した「0.3~0.4μT 以上の被曝で小児白血病が2倍に増加」報告もあります。これらの報告を受けて、WHOもついに01年10月になって「ファクトシートNo.263」で「ガンの可能性あり」と発表し、「予防対策の勧告」をしました(朝日新聞 01.11.5)。疫学研究で最も新しいのが日本と英国の研究です。日本の報告は 03年6月 に発表された「兜報告」なのですが(サンデー毎日:03.7.20 号)「0.4μT 以上の被曝で小児急性リンパ白血病が4.73倍、小児脳腫瘍が 10.6倍」にもなっていますし、「送電線から50m以内では3.08倍もの小児白血病・増加」を示していました。一方でその結果を「信用できない」とする批判もあり、文部科学省の評価委員会は12項目すべてに「オールC」の最低評価を下しましたし、日本のマスコミも無視することにしたようです。その背景を朝日新聞の松本記者が「告発・電磁波公害」(緑風出版2007.10)の本で詳細に報告しています。この小児白血病・論文は06年8月に著名な研究雑誌に掲載されましたから正しいと認められたわけで、WHOの「EHC238」でも高く評価されています。無視しているのは、日本の産官学とマスコミだけといって良いのではないでしょうか。本当に困った現象だと思います。
 また05年6月には英国の小児白血病に関する論文が話題になりました。「送電線から200m以内で1.69倍、200~600mでも1.23倍」と統計的にも有意な増加を示すとのドラッパー論文が発表されたからです。この報告を受けて、英国も規制強化に向かいつつあります。92年に発表された「小児白血病の増加が、0.2μT以上の被曝で2.7倍、0.3μT以上で3.7倍」とのカロリンスカ報告を受けて、スウェーデンはVDU(VDT)規制と同じように 0.2~0.3μT 以下を目安に直ちに行動を開始し、93年からは、幼稚園・学校・団地などの近くの送電線の撤去、撤去困難な場合は幼稚園の廃止・移転や地下40mに埋設する工事などを行っています。家からは240m、学校などの場合は1000mを目安に離すよう勧告しているとのことです。ストックホルム市の環境行動計画「環境2000」(95年に発表)には、「電磁波や屋内ラドン・ガスのレベルも低減されなければならない」と書かれているように、国をあげて低減化が進められています。「100μT(50Hz)で法制化」しようとしているこの日本との相違に驚かされます。
米国・環境健康科学研究所・作業班の報告(98年7月)も、「ガンの可能性があり得る」との結論でしたが、「小児白血病の証拠があるか」との投票では委員26人中の20人が「すでに証拠あり」で、6 人が「証拠はまだ不十分」でした。「証拠がない」とした委員は一人もいませんでした。その研究所の最終報告結果は大変な迷走の上で99年 6月に発表されたのですが、「危険性」を認め、「送電線などの電磁界低減をし続けるよう」勧告をし、低減化対策として、「慎重なる回避」的な行為の継続を求めました。低周波・磁界に関しては、01年10月にWHOが「ガン:2B」に、02年10月カリフォルニア州保健局は「白血病:2B~1」「脳腫瘍・流産・ALS病:2B」と発表しました。「4:原因ではない」「3:判断できない」「2B:可能性あり」「2A:可能性が高い」「1:原因である」の分類です。
 生殖への影響も心配です。電磁界被曝の親からは女子出産が多いという研究が多いのですが、02年には最大ピーク磁界被曝が1.6μTを越えると「流産が5.7倍に増加する」との米国の研究が発表されました。カリフォルニア州保健局の依頼研究なのですが、常時被曝ではなく、「定期的」被曝での結果です。つまり、定期的に料理を作ったり、電車に乗って通勤したりする場合です。「流産増や男女比」以外にも職業人の危険性を示す疫学研究も多く、いまや「危険な可能性がある」ことは常識になっているといって良いでしょう。人間への長期影響は疫学研究でしか明らかに出来ないからです。

【5】電磁波問題の経過(3)(日本の状況)

 先進国中でも、国民に電磁波被曝を強要している国はこの日本だけではないでしょうか?家の上に送電線が通っていても平気ですし、官民あげて「オール電化」推進に熱心だからです。原発推進の為もあってか夜間電力を7割も値引きしてオール電化に邁進しています。原発から撤退始めている北欧・ドイツなどが再生可能な自然エネルギーを重視すると共に、電磁波問題にも厳しい立場を取っているのと、この日本の方向とは大きく食い違っています。どちらが正しいかは今後の歴史が決めることでしょうが、危険性が明らかになったときにこの日本では誰が責任を取るのでしょうか?「科学技術万能」の20世紀への反省が必要なのではないでしょうか?
 「オール電化」では、「電磁調理器」と「床暖房」が目玉です。96年のことですが、ある女性週刊誌は「電磁調理器はマジックハンドを使って調理する」漫画を掲載してくれました。30センチメータの場所で、50/60ヘルツで5~10μTの強い磁界が観測されますし、3万ヘルツ周辺でも数μTになります。高調波という整数倍の電磁波も強く、5倍の高調波では10万ヘルツを超えてしまいます。02年4月には、電磁炊飯器でペースメーカがリセットされたということで、厚生労働省がメーカに対して点検指示を出したほどです。07年6月18日に「EHC238」が報道されたのですが、WHOの会議にも出席したことのある国立成育医療センターの斉藤室長ですら、「妊婦は電磁調理器の使用を避けるのが望ましいだろう」と話しています。
 WHOは「EHC238」において、小児白血病の可能性を正式に認め、予防的対策を求めています(毎日新聞07.6.2、東京新聞07.6.18、日経新聞07.6.18)。しかし、WHOは基準値の決定を放棄し、基準値はICNIRPが決めることになりました。純粋に健康問題として対処すべきなのですが、不幸なことに経済問題・政治問題になってしまったわけです。この「EHC238」を受けてICNIRPは基準値の見直し作業を開始しているわけですが、日本では古いICNIRPの「1998年ガイドライン」を基にして法制化を急いでいるというわけです。そのために経産省が行っている一連の動きに関しては、本シンポジウムの基調報告で網代さんが報告されますが、幾つもの問題点があります。最大の問題点の1つは、「WHOの正式見解はファクトシートだ」といっていることでしょう。96年にスタートしたWHOの電磁界プロジェクトの目的は「EHC」を作成することであって、「ファクトシート」ではないのです。「ファクトシート」は副次的な文章だといえるでしょう。ところが経産省WGは「EHCよりもファクトシートの方が重要だ」とわけのわからないことを根拠にするようになったのには本当に驚きました。もし「EHC」よりも「ファクトシート」の方が重要で、それがWHOの正式見解であるならば、何故「ファクトシートNo.263」を重視せずに「資料No.263」と訳して無視したのでしょうか?この「No.263」は朝日新聞で大きく取り上げられたのですから、無視するわけにはいかなかったはずですのに、今になって「ファクトシートが正式だ」なんていうのはごまかし以外の何物でもないでしょう。そもそも「EHC」は「専門家が集まって作成する報告書」であり、それを作成するために96年から11年もかかったのであり、一方の「ファクトシート」はWHO内の電磁界プロジェクト事務局が作成するのであって、どちらが重要かはいうまでもありません。そうであるからこそ「ファクトシートNo.322」には、「IARCが2002年に、またICNIRPが2003年にそれぞれ発表した、ELF電磁界の健康影響に関する最近のレビューを更新するものです」と明記せざるを得なかったのです。そのように「明記している」にもかかわらず、どうしてICNIRPが1998年に発表した「ガイドライン」が、「EHC238」の認める「国際的なガイドライン」になるのでしょうか。WHOが基準値を作成するという当初の計画は日米などの反対で挫折し、その基準値作りはICNIRPにまかすことになったのですから、「EHC238」を受けて今後作成されるガイドライン値こそが重要になるはずです。ICNIRPの1998年ガイドライン値をうけて、その前後に多くの国々はそのガイドラインをまず導入しました。ところがこの日本では、電力会社などはICNIRPの1998年ガイドライン値を無視して、「EHC」を重視して87年の「EHC69」の中に出てくる「5000μT」を宣伝に利用しつづけていたのです。電力会社がICNIRP基準値を採用したドイツのことを「秘密」扱いにしていたことを思い出します。
 そもそも1998年のICNIRPガイドラインは、熱効果しか認めず、短期影響のみを根拠にしたガイドライン値であることを明記しており、しかも「これ以上は越えてはいけない」という最大値としての規制値であるにもかかわらず、「100μT(50Hz)以下は安全」としているのだから驚いてしまいます。小児白血病の可能性がある」とした「EHC238」の結論は、長期影響の可能性を認めたのであり、それを認めていない1998年のICNIRPガイドライン値は明らかに失効しているのです。
 経産省WGが100μTを答申したことで、今度は厚労省が労働者や一般国民への基準値作りをスタートさせることになるでしょう。環境省も環境基準値を作成する義務があるはずなのですが、一体どこが責任を持つのでしょうか?そのような中で、労働者と子どもや赤ちゃんや妊婦に対する規制値がどうなるのでしょうか?経産省WGは電力設備に限定しているとはいえ、その影響は家電製品にまで及ぶでしょうし、携帯電話などの高周波も影響を受けるはずです。すでにある日本の高周波の規制値は、1998年の古いICNIRPガイドライン値よりもゆるい値なのです。このような問題点や予防原則に対する対応などを検討するために、WHOの電磁界プロジェクトと連携して設置された「6省庁連絡会議」の議事録の全面的な公開をぜひ要求したいと思います。

【6】予防原則・思想の重要性

 日本の死産児の内、男児の割合が70年代から急増し、今では女児の2.23倍にもなっていることが大問題になっています(「サンデー毎日」02.5.16、「YOMIURI.Weekly」03.6.22)。更に、妊娠初期の 12~15週の死産に限定すると 10倍にもなっているそうです(朝日新聞04.7.4)。西ドイツと米国の調査結果では僅かしか増加しておらず、日本独自の現象であることが明らかになりつつあります。原因として、環境ホルモン・農薬・食品添加物・回虫・食塩などが考えられていますが、電磁波被曝も有力候補の1つです。2007年からは、私も電磁波原因説を指摘し始めたのですが、その理由の1つとして電磁波被曝による「カルシウム漏洩現象」を上げることにしました。鶏卵に50または60ヘルツの15V/m電界を照射し、生まれたヒナの脳細胞に同じような電界を照射してカルシウム漏洩を調べた研究があります。そのような被曝実験には50-50、50-60、60-50、60-60の4通りの組合わせがありますが、その内での「60-50」の組み合わせ照射の場合にのみカルシウムの大漏洩が見い出されているからです。米国・環境保護庁のブラックマン博士が1988年に行った研究なのですが、2006年にもまだ解決されていない現象として博士が報告しているのを読んで私は驚きました。1つの国で60と50ヘルツを併用しているのは、この日本だけだからです。それなのに、この日本では全く追試がなされていないのです。そのことに気付いてから、2007年より「電磁波被曝が原因かも知れない」と私は言うようになったのです。間違いであれば良いのにと思いながら・・・。カルシウムは人間の生殖や神経伝達に深く関わっている物質です。人間の骨がカルシウムで出来ているのは、生命維持に取って重要なカルシウムを補強するための貯蔵庫だからでもあります。
 そして研究が進むにつれて、それ以外にも色々な危険性が浮上してきているといって良いでしょう。その中で、最近になって驚いた研究の1つに、「タンパク質発現」に関する世界で最初の研究論文があります。2008年2月に発表されたフインランドの論文で、人間の上腕の皮膚にケータイ電磁波を照射したところが、その皮膚に「タンパク質発現が見られた」というのです。「プロテオミックス」という最新の分析方法が使用されたのですが、今になってこのような研究が出てくることに私は驚いています。皮膚の表面は外界との境界であって、とても敏感なのですが、それが電磁波被曝と関係している可能性を示す論文も増えてきていて、電界も問題である可能性の高いことを示しています。
 電磁波にも「リスク(危険)とベネフィット(利益)」が成り立ちます。電気なしでは生活できませんし、ケータイもいまや世界中で20億台以上ですから、危険な割合が極めて低いとしても、その悪影響は膨大になるはずです。生殖系などへの影響も懸念されているのですから、人類の生存の点からも慎重に対処すべきです。電磁波問題は、まさに21世紀の公害であり地球環境問題の1つです。
20世紀になって問題となった環境悪化に対処する思想として「アララ(道理にかなって達成可能なほど低く)」「慎重なる回避」「予防原則」がありますが、21世紀のみならず今後1000年間を考えた時の環境キーワードとして最も重要なのが「予防原則」思想です。「予防原則」とは、「科学的に不確実性が大きな場合のリスクに対応するため」の原則であり、「危険性が十分に証明されていなくても、引き起こされる結果が、取り返しがつかなくなるような場合に、予防的処置として対応する」考え方です。92年ブラジル「環境サミット」の「第15宣言」にも盛り込まれました。ミレニアム年の2000年 2月には、EU委員会は「環境問題に関しては、予防原則を基本とする」ことを決定しています。フランスは05年 3月に「予防原則」を憲法に取り入れています。「危険性が証明されるまでは安全だ」と考えるのではなく、「危険な可能性がある限り、安全性が確認されるまでは排除しよう」との流れが今や世界中で広がりつつあります。地球温暖化、オゾンホール、原水爆と原発、環境ホルモン、遺伝子操作食品、エイズ、狂牛病などに直面して、その様な考え方が欧州を中心にして広がっています。WHOの電磁界プロジェクトの「EHC」報告がこんなに遅れた最大の理由が「予防原則」思想を巡ぐる混乱でした。「予防原則」を重視するEU諸国と「それに反対する」日米との争いでもあり、また「Precaution」と「Prevention」との争いでもありました。国民的論争もなされることなく、秘密の研究会で、日本の考えを「Prevention」と決定されたことに私は悲しい思いをしています。
「電磁波の危険性が100%確定した」というわけではありませんが、問題なのは「安全性が確定していなかった」ということです。「便利さを最優先する」ことはもう止めにしたいものです。疫学研究のみならず、遺伝子レベル・細胞レベルでの悪影響研究も増えてきているのですから、「危険な可能性が高い」と考えて、子供や胎児の立場を重視し「予防原則」思想で厳しく対処する必要があると私は考えています。

【参考文献】拙著(共著・監修を含む):「ガンと電磁波」(技術と人間95)、「高圧線と電磁波公害」(緑風出版99)、「ケイタイ天国・電磁波地獄」(週刊金曜日00)、「携帯電話は安全か?」(日本消費者連盟98)、「死の電流」(ブローダ著緑風出版99)、「電力線電磁場被曝」(ブローダ著緑風出版01)、「携帯電話:その電磁波は安全か」(カーロ他著集英社01)、「電磁波汚染と健康」(シャリタ著緑風出版04)、「電磁波の健康被害」(チェリー著、中継塔問題を考える九州ネットワーク編05)、「健康を脅かす電磁波」(緑風出版07)、「危ない携帯電話」(緑風出版07)





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